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東京高等裁判所 平成5年(行コ)135号 判決

控訴人(被告) 東京都足立都税事務所長

被控訴人(原告) 大宝興産株式会社

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

本件控訴を棄却する。

第二事案の概要

本件は、被控訴人が控訴人に対し、地方税法(以下「法」という。)六〇三条の二の規定に基づき、パチンコ店の付属駐車場に供する土地の取得に係る特別土地保有税の納税義務の免除の認定を申請したが、控訴人がその認定をしない処分をしたので、右処分(以下「本件処分」という。)の取消しを求めた事案であり、原審は被控訴人の請求を認容した。

一  争いのない事実等(括弧内に掲げる証拠によって認定した事実以外の事実は当事者間に争いがない。)

1  本件土地の取得経緯等

(一) 被控訴人は、遊技場の経営等を目的とする株式会社であるところ、原判決別紙第二物件目録記載一ないし五の土地(以下「A土地」という。)、同目録記載六及び七の土地(以下「B土地」という。)並びに原判決別紙第三物件目録記載の建物(以下「A建物」という。)を所有している(甲五ないし一一、一三、弁論の全趣旨)。

(二) 被控訴人は、昭和五〇年ころから、A土地上にあるA建物において、パチンコ店(以下「本件パチンコ店」という。)を営業しており、B土地を本件パチンコ店の来客専用の付属駐車場に供してきた(甲一四、弁論の全趣旨)。

また、被控訴人は、昭和五一年ころから、A土地に隣接する原判決別紙第二物件目録記載八の土地を賃借し、本件パチンコ店の来客専用の付属駐車場に供している(甲一六号証)。

(三) 被控訴人は、右の付属駐車場を拡張するため、昭和五六年六月から、B土地に隣接する原判決別紙第一物件目録記載の土地(合計二二八七・四一平方メートル。以下「本件土地」という。)を賃借していたが(甲一五)、平成二年六月一五日、その所有者である小倉誠から、本件土地を代金一六億五四四三万三六七〇円で買い受けた。

(四)(1) 本件土地等の各不動産の位置関係は原判決別紙図面のとおりであり、本件土地は、B土地に隣接し、公道(幅員六・五メートル、二車線で、本件土地側に幅員二・二メートル、A土地側に幅員二・三メートルの歩道を有する。以下「本件公道」という。)を隔てて、A土地及びA建物に対面する位置にあり(甲二、乙七の二、弁論の全趣旨)、本件土地の取得前と同様に、引き続き本件パチンコ店の来客専用の付属駐車場として供されている(以下「本件駐車場」という。)

(2) 平成二年七月当時、本件駐車場は、アスファルトやコンクリート等による舗装はされておらず、地表には所々に陥没があり、雨水の滞留があったが、本件公道を除くその余の隣接地との境界は金網フェンスで画されており、砂利が敷かれ、駐車区画がロープで仕切られていた。

また、本件駐車場には、特に専用の管理室はなく、管理人も置かれていないが、本件パチンコ店の従業員が必要に応じて、フェンスや区画ロープの補修、駐車場の清掃等を行っていた(弁論の全趣旨)。

更に、右の当時、本件パチンコ店の来客による本件駐車場の利用は、ピーク時(午後三時ないし八時)には、駐車可能台数である一六〇台分が、ほぼ満車になる状態であった(弁論の全趣旨)。

(五) なお、被控訴人は、平成三年一〇月、本件土地に二階建駐車場を建設した。

2  本件処分の経緯

(一) 被控訴人は、平成三年二月二八日、控訴人に対し、本件土地に係る特別土地保有税納付申告書を提出するとともに、右納税義務の免除の認定を申請した。

(二) 控訴人は、同年五月八日、本件土地が免税対象土地に該当しないとして、納税義務の免除の認定をしない旨の決定をした。

(三) 被控訴人は、同年六月三日、東京都知事に対し、本件処分の取消しを求める審査請求をしたが、東京都知事は、平成四年九月一四日、右審査請求を棄却する旨の裁決をした。

3  特別土地保有税の免除の要件

(一) 法六〇三条の二第一項二号は、市町村(東京都の特別区にある土地については都(法七三四条))は、当該土地が、〈1〉 工場施設、競技場施設その他の施設(建物、構築物その他の工作物及びこれらと一体的に利用されている土地により構成されているものに限る。以下「特定施設」という。)のうち、その整備状況、利用状況等が恒久的な利用に供される特定施設に係る基準として政令で定める基準(以下「恒久性の要件」という。)に適合するものの用に供する土地で、かつ、〈2〉 当該土地の利用が当該市町村(都)に係る土地利用基本計画、都市計画その他の土地利用に関する計画に照らし、当該土地を含む周辺の地域における計画的な土地利用に適合する(以下「土地利用計画適合性の要件」という。)ものであることについて市町村長(都においては、都知事の委任を受けた都税事務所長(法三条の三))が認定した場合には、当該土地に係る特別土地保有税の納税義務を免除するものとしている。

なお、右の認定は、申告納付すべき日の属する年の基準日(本件については、平成二年七月一日)の現況によるものとされている(法六〇三条の二第七項、五八六条四項)。

(二) 法施行令(以下「施行令」という。)五四条の四七第二項は、恒久性の要件について、次のように定めている。

(1) その整備状況が同一又は類似の用途に供される施設について通常必要とされる整備の水準と同程度の水準に達しているものであること。

(2) その利用が相当の期間にわたると認められること。

(3) その効用を維持するため通常必要とされる管理が行われると認められること。

(三) 昭和五三年四月一日自治固第三八号自治省税務局長通達「恒久的な建物、施設等の用に供する土地に係る特別土地保有税の納税義務の免除の取扱いについて」(乙四)は、施行令の定める恒久性の要件について、次のとおり定めている(第二―三―2)。

(1) 特定施設について通常必要とされる整備の水準は、施設の種類、その存する地域の状況等に応じて判定すべきものであるが、その場合、当該特定施設の設置改良のために要した資金の状況を参考にすることが適当である。

(2) 〈省略〉

(3) 特定施設の効用を維持するため、当該特定施設について維持補修等の物的な管理が行われることのほか、管理施設の設置又は管理人の配置等人的な管理も行われることを要するものである。

(四) 昭和五三年四月一日付け自治省税務局固定資産税課長内かん「恒久的な建物、施設等の用に供する土地に係る特別土地保有税の納税義務の免除の運用について」(以下「課長内かん」という。乙三)は、駐車場に係る恒久性の要件について、次のような運用指針を示している(一―1)。

ア 一定の工作物により駐車場の範囲が特定され、かつ、駐車するために必要な舗装等の整備がされていること。

イ 継続的に駐車場として利用されており、かつ、適切な管理が行われていること。

ウ ピーク時における駐車台数が収容定数のおおむね五割以上であること。

なお、工場施設等の特定施設内の空地を駐車場として利用している場合は、特別の工作物が設けられていない場合でも、継続的に利用され、その利用の程度が上記ウの基準に達するものと認められるときは、当該特定施設の一部として対象とすべきものであること(以下、この部分を「なお書」という。)。

(五) 本件土地は、前記(一)〈2〉の土地利用計画適合性の要件を充足している。

二  争点(恒久性の要件の存否)に関する当事者の主張

1  被控訴人

特定施設が主たる構成要素である建物等(以下「本体部分」という。)とこれと一体的に利用される駐車場等の付属的な施設(以下「付属部分」という。)とからなる場合、これらは一体として一つの特定施設を構成するものであるから、恒久性の要件を充足しているか否かは、特定施設全体について判断されるべきであって、付属部分を別個の施設であるかのように考え、両者の関連性を無視して右要件の該当性を判断するのは誤りである。

確かに、具体的な判断プロセスは、本体部分と付属部分とについて個々に検討していくことになるとしても、恒久性の要件のうち、整備及び管理の規準については、両者が同一ではあり得ない。すなわち、本体部分に係る恒久性の要件は、施行令五四条の四七第二項に定めるものであるのに対し、付属部分に係る恒久性の要件は、付属部分が本体部分に従属してその効用を補完することによってこれと機能的に一体をなすものであることに鑑み、付属部分としての効用を維持するものと通常認められる程度の整備及び管理の水準であれば足りると解すべきである。

課長内かんのアないしウは、独立した施設としての駐車場に係る恒久性の要件を規定し、なお書は、特定施設内の付属部分としての付属駐車場に係る恒久性の要件を規定したものと解すべきであり、付属駐車場に係る恒久性の要件は、専ら利用度が基準とされているというべきである。

そうすると、本件駐車場は、長期間にわたって高度に利用されているので、恒久性の要件を充足しているというべきである。

2  控訴人

当該土地が免除対象土地と認定されるためには、外形的、客観的に判断して、基準日において、恒久的な特定施設の用地として既に社会通念上相当の水準の利用がなされていることが必要である。

そして、特定施設が本体部分と付属部分とからなる場合に、当該付属部分が当該本体部分と公道を挟んで分離され、外形的、客観的に独立して設けられていると認められるときは、右付属部分については、独自に付属部分としての恒久性の要件を充足しているか否かを判断すべきであり、その場合、付属部分に係る恒久性の要件は、本体部分の恒久性の要件と同等の整備及び管理の水準であることを要するものと解すべきである。そうでなければ、付属部分に供されている土地は、整備及び管理が全く行われていない場合であっても、本体部分と付属部分が一体的に利用されているというだけで免除対象土地に該当することになり、最終的な需要に供されている土地のみを免除対象土地にしようとする免除制度の趣旨を没却するおそれがあるからである。

課長内かんは、施行令の定める要件を期間の点を除いて注意的に示したものであるから、付属部分としての付属駐車場は、課長内かんのアないしウに定める恒久性の要件を充足していることが必要であるというべきである。課長内かんのなお書は、工場施設等の敷地内に存する狭小な空地部分をたまたま駐車場として利用しているような場合に適用される規定にすぎないものと解すべきであり、付属駐車場についてアないしウの要件を緩和したものではない。

そうすると、本件駐車場は、単に砂利を敷いただけで舗装されておらず、地表の所々に陥没があり、雨水の滞留が見られ、地表の陥没の補修が十分なされておらず、管理事務所の設置や管理人の配置もないなど物的、人的管理状況が不十分であって、恒久性の要件を充足していない。

第三当裁判所の判断

一  特定施設該当性について

本件土地及びB土地は駐車場であり、A建物及びA土地はパチンコ店及びその敷地であって、しかも、その間には本件公道が介在しているので、本件土地及びB土地は駐車場として、A建物及びA土地はパチンコ店施設として、利用上は主従の関係にあるとしても、それぞれ別個独立の施設として二つの特定施設を構成しているものと解する余地がないではない。しかし、控訴人は、終始、これらが全体として一個の特定施設を構成するものであることを認めており、二個の特定施設であることを理由としてそれぞれについて恒久性の要件を判断すべきものとはしていない。そして、前記第二の一1の事実によれば、本件土地並びにA土地及びB土地は近接した一団の土地であって、本件土地は被控訴人が取得する前の昭和五六年六月から本件パチンコ店の付属駐車場として使用されており、本件駐車場は、その整備及び管理の態様はごく簡単なものではあったが、本件パチンコ店の来客による利用度が高く、免除認定の基準時である平成二年七月一日当時、本件パチンコ店と一体的利用関係にあったものということができるし、また、本件パチンコ店の立地条件に照らすと、本件駐車場が、本件パチンコ店の付属駐車場としてその必要性が高く、過大にすぎるということもできない(控訴人は、本件駐車場が本件パチンコ店の敷地を大きく上回ることは指摘しているが、本件パチンコ店の付属駐車場として過大にすぎるとの主張はしていない。)。したがって、本件公道が介在することによっても、本件土地並びにA土地及びB土地の地理的一体性は損なわれておらず、また、A建物と本件土地とは、パチンコ店とその付属駐車場という関係にあって、機能的にも一体として利用されているので、控訴人もこれを認めるように、A建物、A土地、B土地及び本件土地は、その全体が一つの特定施設(以下「本件特定施設」という。)に該当するものと認めるのが相当である。

二  恒久性の要件について

1  特別土地保有税は、土地保有に伴う費用の増大を通じて投機的な土地取引を抑制し、合わせて投機的に保有されている土地の放出を促すことを目的にして設けられたものであるが、法六〇三条の二に定める納税義務の免除は、右の課税目的に照らし、既に社会通念上相当程度の水準に達した利用がなされ、最終的な需要に供されている土地については、税負担を求めることが適当でないという趣旨に鑑み、課税の適正化を図るための措置として設けられた制度である。しかし、実際に免除の可否について判断するに当たっては、最終的な需要に供されている土地であるか否かを実質的に判定することには困難を伴うところから、同条一項各号において客観的な要件を定め、この要件を充足する土地を免除の対象とすることにしたものであると解される。

2  ところで、同項二号の「特定施設」とは、建物、構築物その他の工作物及びこれらと一体的に利用されている土地によって構成され、積極的に特定の効用を果たしている物的施設の総合体を意味するものであり、納税義務免除の対象となるのは、「特定施設で、その整備状況、利用状況等が……政令で定める基準に適合するもの」すなわち「恒久性の要件を充足する特定施設」の用に供する土地であるところ、一般的に言えば、右の恒久性の要件の存否は、特定施設全体を一体のものとして捉えた上で、総合体としての特定施設そのものについて判断すべきものとしていると解される。そして、特定施設が、土地自体の利用を主たる目的とするものではなく、建物又は構築物を主たる構成要素(本体部分)とし、土地を従たる構成要素(付属部分)とするものである場合には、付属部分である土地は、本体部分である建物等と地理的、機能的に一体となってその効用を補完するものであって、恒久性の要件の判断に当たり重点が本体部分に置かれることは当然のことであるから、特段の事情のない限り、本体部分が恒久性の要件を充足していれば、これと一体の関係にある付属部分を含めた特定施設全体について右の要件を充足するものであって、付属部分だけを取り出して、本体部分とは別個独立に右の要件の存否を判断しなければならないものではないと解するのが相当である。

3  控訴人は、付属部分が本体部分と公道を挟んで分離され、外形的、客観的に独立して設けられている場合には、付属部分については、独自に付属部分としての恒久性の要件を充足しているか否かを判断すべきであり、付属部分に係る恒久性の要件は、本体部分の恒久性の要件と同等の整備及び管理の水準であることを要するものと解すべきであって、そうでなければ、付属部分に供されている土地は、整備及び管理が全く行われていない場合であっても、本体部分と付属部分が一体的に利用されているというだけで免除対象土地に該当することになり、最終的な需要に供されている土地のみを免除対象土地にしようとする制度の趣旨を没却するおそれがある旨、その他前記第二の二2に摘示したもののほかにも種々の理由を挙げて本件土地について独自に恒久性の要件を判断すべきであると主張する。

確かに、本件のように本体部分と付属部分とが公道を挟んで分離されているような場合には、一見、控訴人主張のごとき見解が妥当するものと考えられないわけではない。しかし右の見解は、一方において本体部分と付属部分とが一体のものとして利用され一つの特定施設を構成することを肯定しながら、他方において恒久性の判断に当たっては、各個の構成要素ごとにこれをその対象とすべきものとするのであって、利用上の一体性を要件とする特定施設の概念と矛盾するものといわなければならない。けだし、当該土地が本体部分と地理的、機能的に一体となって本体部分の効用を補完し、一つの特定施設を構成するものであるか否かは、最終的な需要に供される土地を免除対象土地にしようとする制度の趣旨に照らし、本体部分との地理的関係、利用に至る経緯、利用状況等を総合して判断されるべきものであるから、このような判断過程において、特定施設に該当しないものとし、あるいは当該特定施設を構成するものではないとして、免除対象外の土地とすることがあるのは格別として、利用上一体の関係にある一個の特定施設であると認められるもの(本件土地が一個の本件特定施設を構成するものであることは前認定のとおりであり、控訴人も終始これを認めているところである。)について、たまたま公道を挟んでいるが故に恰も客観的、外形的に独立しているかのごとき外観を呈していることを理由に、その部分について恒久性の要件を別個に判断することができ、若しくは判断すべきであるとする明文の規定はないのみならず、法及び施行令の規定を素直に解釈すれば、その政策的当否は別として、一個の特定施設が全体として恒久性の要件を充たしていると認められれば足り、各個の構成要素ごとにこれを判断するものとはしていない趣旨のものと解されるのである。

控訴人の指摘する課長内かん(一―1)のアないしウは、土地自体の利用を主たる目的(駐車場)とする特定施設について定めたものであり、そのなお書は、工場施設等の特定施設内の空地を駐車場として利用している場合に、これを当該特定施設の一部として扱うことのできる要件について言及したものであるから、本件駐車場が本件パチンコ店の付属駐車場として本件特定施設を構成している本件とは、事案を異にするというべきである。

したがって、以上の点に関する控訴人の主張は、採用することができない。

三  本件土地の免除対象土地該当性について

弁論の全趣旨によれば、本件特定施設の主たる構成要素である本件パチンコ店が施行令五四条の四七第二項の定める恒久性の要件を充足していることが認められ、また、前記の特段の事情が存することについては、何らの主張立証もない(本件土地が単に公道によって分離されているというだけではこれに当たらない。)ので、本件特定施設は全体として恒久性の要件を充足するものと認められる。なお、本件土地が本件パチンコ店の付属の駐車場として利用されてきた経緯、利用の状況及び本件パチンコ店の立地条件に照らし駐車場としてその必要性が高く過大なものであるとはいえないことなど前記の各事実によれば、本件土地が駐車場としてはいささか簡易な設備しか有していないとしても、これをもって本件土地を含む本件特定施設が全体として恒久性の要件を充たすものとする妨げになるものとは認められない。したがって、本件土地は、恒久性の要件を充足する特定施設の用に供する土地、すなわち、特別土地保有税の免除対象土地に該当するものというべきである。

よって、右と同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法三八四条、九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 清水湛 瀬戸正義 小林正)

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